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オランダの依存症医療・キュアとケア

「キュア」と「ケア」

 オランダでは、依存症医療は「治療(蘭kuur)」と「ケア(蘭zorg)」のおおまかな枠組みで展開されている。外来語表現として、英語のcureとcareがそのまま文書で用いられることもあるが、意味内容は英語のそれとは異なる。依存症医療の文脈で「キュア(cure、治癒)」という表現が出てくるのに違和感を感じる日本の読者もいるであろうが、ここでいう「キュア」とは、端的に、依存対象となっている物質や行為から離脱する、つまり、断酒・断薬を目標とする方向性を指す。「ケア」は、ただちに離脱するのではなく、感染症や合併症の予防や治療をしながら、使用量・頻度を次第に少なくしていく、使用量・回数を安定させる(イッキ飲み・イッキ使用を防ぐ)、物質使用によって引き起こされるさまざまな心身の問題に対処していく方向性での治療や医療上の援助をさす。

 オランダでは、断酒・断薬は、治療や、心理・生活リハビリテーションに入るための条件というより、治療や回復の進展に応じて達成されるという位置づけである。であるから、有力な代替置換療法のない物質使用の治療であっても、ゴールはかならずしも最初からの断酒・断薬とはならない。断酒・断薬、つまりオランダ的な表現でいうところの「キュア」を選択しない場合には、「ケア」を主体とする治療を受けるということになる。

 オランダの文脈でいう依存症にたいする「ケア」の治療とは、いうなれば、「薬物やアルコールを使っている人を対象とした医療」という枠組みである。オランダでは、断酒や断薬の決心がつかない人でも、退薬症状で苦しんでいればその症状をやわらげるための治療を受ける権利があるし、そのような状態の人にたいして医療を提供しないのは公平でない、とする考えがある。このような考え方は1970年代初頭、オランダにヘロインが入ってきて流行していた時代にはすでに存在し、1980年代以降HIVの流行が問題となったとき、さまざまなハーム・リダクション対策を展開する基礎となった(Blok, G. 2008)。

[1] 依存症医療だけでなく、オランダの精神保健・医療サービスは「キュア」「ケア」「予防」という基本枠組みで展開されている。

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